churaroom’s blog

日常感じている事時々意識のお話

一本の缶コーヒー

 「このスクーターいくらで売れるかな?」


引越しを機に、
全く使っていないスクーターを売ることにした。


ネットで予約をし、
CMでお馴染みのバイク屋さんに
査定と引き取りを依頼する。


2万円でルームシェアしていた
友人から買ったバイクだ。


自賠責が切れたタイミングで
乗らなくなったバイク。


エンジンはしばらく掛けていない。。


どんな状態でも
売れるもんだと思っていた私は、

 「最悪引き取ってもらうだけでもいいか」

そう楽観的に考えていた。


当時日雇い労働をしていた私は、
配送助手や事務所の移転作業など
肉体労働をして生計を立てていた。


 「そうだ!せっかく取りに来てくれるんだから、
 作業員の方に缶コーヒーをあげよう!!」


引越しの作業をしている時に
時たまお客さんから頂ける
差し入れの感覚だ。


作業員の方が来た。
20代半ばの
ニコニコしている
愛想のいい人だった。


軽い感じでありながら、
言葉遣いも丁寧で、


話していると
バイク好きなのが
滲み出てくる
好青年だった。

 「いい人だな〜」

と思いつつ、
おしゃべりをしながら
バイクの査定が進んでいく。


丁寧にバイクの状態を確認し、
査定していく。


査定が終わり、
申し訳なさそうに、
こう言った。

 「すみません、バイクの状態が悪く、
 引き取るのに2万円かかります。
 どうしますか??」

耳を疑った。

意味がわからなかった。

頭が真っ白になり、

だんだんと怒りの感情が沸き起こってきた。


怒りをぶつけそうになるのを
グッと堪え、
やるせない気持ちを抱えたまま、
2万円を払う。


さっきまで楽しく会話していたのに、
掛ける言葉が見つからない様子の作業員。


ポツリと
 「ご苦労様でした」
といい、私は部屋に入っていった。


ゴロンっと横になり、
ため息と共に失望感を味わう。


2万円で売れたら万々歳だと思っていたが、
現実は2万円払う事になった。


私の心は4万円失った気持ちだ。
ガッカリしていた。


失意の中ふと缶コーヒーのことを思い出す。


「流石に差入れはいいんじゃないか?」


そう思った。


だけど、
最初に決めたことを
曲げるのは
どうも納得が行かない。


重い腰をあげてドアを開き、
作業員の方が、
車にバイクを積み込みしているのを横目に
自動販売機でbossのカフェオレを買う。


気持ちの整理はまだ出来ていない。
心はごちゃごちゃしながら、
作業員の車に向かう。


少しうつむき加減ながら、

 「これどうぞ・・・」

と缶コーヒーを手渡す。


すると、ガシッ!と手を握られた。

顔をあげると・・・


 「〇〇さんのことは一生忘れません!」


目を真っ直ぐみてそう告げられた。


まだ気持ちの整理が付いていなくて、
その時は素っ気なくしてしまったが、

あとで、じわじわっと、
心が満たされてきた。


「差入れして本当によかったな」


そう心から思えた瞬間でした。
 

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